1. 予防医療(ワクチン、保健指導等)
近頃はワクチンを接種していれば、子どもたちにとって危険な病気のほとんどは予防出来るようになりました。過去の間違ったマスコミ報道から、ワクチンは怖い物、危険なものというイメージが広がっているかも知れませんが、それは正しい情報ではありません。小さい子どもにかぜ薬や抗生物質を飲ませる方が危険であり、心配です(アレルギー反応等で最悪の場合は死に至ることもあります。ワクチンは乳幼児死亡率を劇的に下げましたが、かぜ薬はわずかにではありますが死亡率を上げています)。ワクチンを打ってさえいれば、そのワクチンの予防する病気にかかる可能性はかなり低くなります。なので、当クリニックはワクチンによる病気の予防に力を入れていきます。
また、常に社会に向けてアンテナを張り、最新の情報に基づいた種々の保健指導や活動を行っていきます。
2. 自然治癒力を促す(必要な薬以外は使わない)
「当たり前のことを言うな」と叱られてしまうかも知れませんが、意外ながら、当たり前などではありません。お母さんたちの子育て力にも関わってくるのですが、薬を処方してもらわないと安心できない、不安だ、本当に大丈夫なの?という方が市立病院の一般外来でも救急外来でも多かったのです。薬を飲ませて安心、いや、それどころか薬をもらって安心、と感じてしまうことはないでしょうか。
1.乳幼児のかぜの考え方
乳幼児の熱、鼻、咳のほとんどは「かぜ」によるものです。では「かぜ」とは何でしょう?「大体が自然治癒の見込める軽症のウイルス性感染症」です。ウイルスが感染する場所により、鼻かぜ、のどかぜ、気管支のかぜ、お腹のかぜ、皮膚のかぜ、などと呼び名が変わります。種類によって多少は経過が似ていますが、どのように治っていくのか本当のところは、まだ分かっていません。確実なのは、どのような経過をとろうが、最終的には治ることです。稀に予測が難しい合併症が起こるケースはあり得ます。したがって経過をよく観察することは大事です。
かぜの中でも上気道のウイルス感染(鼻かぜ、のどかぜ)を例に出します。かぜを生じさせるウイルスは、いきなり体の中から湧いて出てくるのではありません。体を冷やしたからかぜを引いた、というのは迷信です(体が冷えると免疫力は下がるので、確かに引きやすくはなりますが…)。ウイルスは必ず体の外から入って来ます。人間の体の表面は非常に強固なバリアである皮膚に覆われています。皮膚からウイルスは入り込めません(水いぼのウイルスは皮膚に感染しますが、体の奥には入れません)。皮膚で覆われていないところ、例えば眼や鼻の穴、口などからウイルスは侵入します。その中でも感染経路として最も多いのは鼻です。息をするため、外から異物が入ってきやすいのです。多くのウイルスは鼻の穴から侵入し、その奥で増殖します(図の赤丸の所です)。
上から順に鼻(鼻腔)⇒ 口(口腔、咽頭)⇒ のど(喉頭)となっています。
① 発熱について
ウイルスは鼻の粘膜の細胞に侵入します。そこで酵素というたんぱく質を使ってどんどん増えていきます。すると体は自分を守るために熱を出して酵素を働かないようにしてウイルスの増殖を抑えます。酵素(たんぱく質で出来ている)は通常の体温(37℃くらい)で一番よく働いて、39℃ではほとんど働きません。たんぱく質は熱で変性するので、熱に弱いのです(卵の白身も熱で色も形も全く変わってしまいますね)。
ここでお母さんも理科の復習!(分かっている方は飛ばしてください)
★ 細胞:全ての生物が持つ、微小な部屋状の構造のこと。生物体の構造上・機能上の基本単位。人の体も1個1個の細胞から出来ています。約37兆個!もあるようです。
★ ウイルス:他の生物の細胞を利用して、自己を複製させることのできる微小な構造体で、たんぱく質の殻とその内部に入っている遺伝情報の核酸(DNAやRNA)からなります。大きさは10~100nm(ナノメータ:10億分の1メートル)。細胞の100~1,000分の1の大きさしかなく、生物と無生物の中間(?)的存在です。かぜのウイルスがよく知られ、こうしたウイルスは病原性を持っています。
★ 細菌(ばい菌):バクテリア(ばい菌)とも呼ばれています。0.2~10μm(マイクロメータ、100万分の1メートル)くらいでウイルスより大きく、顕微鏡で見ることができます。堅い細胞壁を持つ単細胞生物(1つ1つが細胞)です。自分で増殖するので、生物に寄生しなくても増殖できます(食べ物等が腐るのは細菌が寄生し、増殖するため)。耐性が無ければ、抗生物質が効きます。病原性を持つ悪玉菌以外に、人に有用な善玉菌もいます(ビフィズス菌、納豆菌など)。
★ 酵素:生体で起こる化学反応に対して触媒(お助けマン)として機能する分子です。多くは、たんぱく質でできています。
★ たんぱく質:20種類存在するアミノ酸が多数連結(重合)してできた高分子化合物であり、生物の重要な構成成分の一つです。
★ 白血球:生体防御に関わる免疫担当細胞を指します。一般にはリンパ球、顆粒球、単球などの総称です。
② 鼻閉、鼻汁について
ウイルスに感染すると、鼻粘膜の細胞が協調して、できるだけ奥にウイルスを入れないようにと粘膜が腫れます。これが鼻づまりです。細胞の中でウイルスが増殖すると、細胞を壊します。壊れた細胞からウイルスがたくさん放出されます。放っておくと、さらに次から次へと他の細胞に感染してしまいます。できるだけ体の外に出すほうが良いので、鼻水で洗い流すのです。かぜが長引くと鼻水のネバネバが強くなります。それは粘膜細胞の破片を白血球(兵隊さんの役目の細胞)が食べるからです。
③ 咳について
鼻腔や口腔、咽頭にウイルスが感染しても咳は出ません。喉頭(のど)に入ると咳が出ます。かぜの初期には咳は軽度です。かぜが長引くと分泌物がネバネバになります。先ほど述べたように、壊れた粘膜細胞の破片を白血球が食べるからです。そして鼻水が奥に溜まって鼻副鼻腔炎を起こします。ネバネバが強いほど、除去するのに強い力が必要になるため、咳は強くなります。そのため、かぜの後半には咳が強くなるのです。
かぜの症状の中で咳が最も長引きやすく、数週間から1ヶ月くらい続くことも多々あります。保育所等に通っていると、かぜのシーズンはずっと咳をしていることもよくあります。かぜウイルスは何百種類もあるので、何度も感染を繰り返しているのでしょう。
④ 嘔吐、下痢について
かぜを引いた時、嘔吐や下痢が見られることがあります。ウイルスは前述のとおり鼻に感染します。喉頭(のど)の方ではなくて、飲み込むと食道・胃に入ります。胃や腸の粘膜にウイルスが感染すれば嘔吐や下痢をします。またネバネバの分泌物がのどを刺激して嘔吐反射を起こすことがあります。これも、ウイルスを排除する反応です。激しい嘔吐や下痢が無い限りは、ほとんど経過を見るだけで良いはずです。
⑤ まとめ
このように、発熱、鼻汁、咳漱でかぜウイルスを退治します。ですから、実は熱・鼻・咳は身体の味方!なのです。
2.治療について
普通のかぜに治療薬はありません。原因はウイルスですから、抗生物質は効きませんし、抗生物質は下痢の原因になって症状を長引かせます。副作用が出るかも知れません。咳止め、鼻汁を止める薬も前述のように基本的には不要です。薬を飲めば飲むほど自分で治す力を邪魔をするので、治りが遅くなってしまいます。治療より、悪くなった時にきちんと受診することが大事です。特に市販薬は飲まないようにしましょう。厚生労働省(2歳未満の乳幼児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合のみ服用させること:2008年)や米国FDA(食品医薬品局;2~6歳は現在検討中ですが、やはり飲ませない方向です)から乳幼児に風邪薬を飲ませないようにとの勧告が出ています。
では、かぜ薬はなぜあるのでしょう。かぜ薬は、かぜの症状があっても責任ある社会活動をしなければならない大人のために存在するのです。かぜくらいでは仕事を休めませんし、家事を続けなければなりません。子どもには、そんな社会的責任はありません。しっかり休息・栄養をとって治しましょう。
a. 嘔吐下痢症(お腹のかぜ)の経口補液療法(ORT)について
軽症~中等症の嘔吐下痢症の子どもの治療のファーストチョイスは経口補液療法(ORT)です。ORTは発展途上国の下痢症・脱水症の子どもの治療法として開発されたものですが、すばらしい効果があるため、現在では先進諸国でも広く用いられています。
市立病院の救急外来でも、ORTでうまくいかなくて点滴になる子はほとんどいませんでした。ORTについてまず家族にご説明し、クリニック内あるいは帰宅後に次の手順で行っていただきます。
1)脱水症に適した糖分、電解質を含んだ経口補液(例:OS-1)を用います。症状によってはORTの開始30分前くらいに吐き気止めの座薬や内服薬を併用したりします。
2)1回の摂取量はスプーンやスポイトを用いて5~10mlのごく少量から開始します。
3)5~10分毎に摂取を繰り返し、1時間後からは摂取間隔を15分程度に延長して1回摂取量を20~30mlに増やし、2時間程度で合計200ml(点滴1本分に相当)を飲用できることを目標とします。
4)もし、ごく少量でも嘔吐がある場合は15~30分の間隔をおいて再チャレンジします。3時間以上嘔吐が無く、順調に水分摂取が可能な場合は、胃腸に優しい食べ物(例:お粥や白身魚)を開始していただきます。
5)受診時に既に重症化していたり合併症を伴ったりしているお子さんに対してはORTを行わず、最初から点滴療法を行う場合もあります。
(参考)
お子さんに1日に必要な最低水分量は、体重1kg当たりおおよそ50mlです(例:10kgのお子さんの場合は1日に最低500mlの水分摂取が必要です)。
b. 抗生物質(抗菌薬)について
当クリニックも抗生物質(抗菌薬)を処方しない、というわけではありません。
しかし、抗生物質は多くのかぜの原因であるウイルスには全く効果がありません。それどころか抗生物質自体のアレルギー反応が出たり、腸内の正常細菌叢(多種多様な細菌の集まり)を破壊して本来の体の調子を崩し、かぜが治りにくくなります。また耐性菌を出現させて本当の細菌感染症に罹患(かかった)時に、抗生物質が効きにくくなります。「念のため」という細菌感染症に対する予防効果も医学的には証明されていません。
当院では細菌感染の証拠があり、抗生物質による治療の有効性が認められている場合に、なるべく狭域スペクトラム(耐性菌ができにくい)の抗菌薬を使用します。
c. 漢方薬について
漢方薬は古代中国で成立し、日本には飛鳥時代に伝わり、日本人に合うように改善され、発展して来ました。江戸時代に西洋医学がもたらされる前は、医療の中心だったのです。西洋医学は個々の病気に対して診察・検査をして診断し、1対1で治療(処方)することが多いのですが、漢方は病名ではなく、個々の症状に対して処方されます。ですから、違う病名に対して同じ漢方薬が処方されるケースもあります。
患者さんの主訴(訴え)や体の状態をよく観察し、体の自然治癒力が最大限に発揮されるように処方します。そのため西洋薬よりも劇的に即効性を発揮する場合があります(漢方薬は慢性病に効く、と言うイメージがあるかも知れませんが、急性疾患にもよく効きます。たとえば喘息・アトピー性皮膚炎・便秘だけでなく、かぜやインフルエンザにも効きます)。
しかも、子どもは大人と比べて漢方薬の副作用が出にくく、また適切な治療であれば、効果がはっきりと現れやすいのです(もちろん副作用がゼロというわけではありません)。
子どもの体格・特性(性格)は様々です。成長過程にありますから、年々変化していきます。そこを見極めていくには、よく観察することが大事です。ですから、問診ではちょっと変わったことを聞くかも知れません。でも、大事な質問だと思ってきちんと答えてくださいね。当クリニックでも必要に応じて積極的に漢方薬を使っていきます。西洋薬でにっちもさっちも行かない時にも、漢方薬が救世主のように働くときがあるからです。特別に希望される場合は相談してください。
3.かぜの時にどうするか
では、かぜの時にどうしたら良いのかについて以下に述べますので参考にしてください。
(1)安静にします
これが最も大切です。熱があるとき、眠れないくらい咳をしている時、食欲が落ちている時は、保育所や幼稚園はお休みしてゆっくり休息してください。
(2)栄養を摂りましょう
エネルギー源になるでんぷん(炭水化物)を摂りましょう。おかゆやうどんが良いと思われます。
(3)水分は欲しがるだけ与えましょう
飲み慣れたもので構いませんが、できればお茶よりジュースとかポカリスエットなどのイオン水のほうが好ましいです。
(4)手足などの冷たいところは温めて、熱いところは冷やす、が基本です
熱が上がって震えている時は暖かく、上がりきったら涼しくします。クーリングは脳症などの合併症の予防にもなります。
(5)部屋の加湿をしましょう
咳や鼻汁は空気が乾いている時はひどくなります。湿度を保つことは気道を守ることにつながります。マスクがあればマスクを付けてください。加湿器が無くても、濡れたバスタオル等を干すだけでも違います。
(6)鼻汁がひどいときは、どんどん吸ってあげてください
吸引器は薬局で売っています。保護者の口で吸っても良いです(しっかりうがいをしないと子どものかぜが移りますので、ご注意ください)。生理食塩水で鼻うがいをすると鼻づまりが改善し、すっきりします。鼻をタオルで温めても、鼻づまりは改善します。
(7)痰がらみの咳には、はちみつが有効です
温かいお湯に溶いて飲ませます。1歳未満はボツリヌス菌感染の危険があるので禁忌です。
(8)お風呂は入っても構いません
昔は、かぜの時は入浴してはダメと言われたと思います。しかし、高い熱、食事が摂取できない、ひどく消耗しているなどの場合以外は、入浴しても大丈夫です。当たり前ですが、熱いお風呂に長時間入れる、お風呂から上がって濡れたままにしておくなどは止めましょう。
3. 子育て・発達支援、発達障害支援
院長は小児科医(子どもたちの総合医)ですが、その中でも特に専門は“小児神経”です。小児神経というのは発達の問題やてんかんなどのけいれんの病気の専門家です。子どもの発達は保護者の子育てに大きく関わっています。人は動物ですが、きちんと育てられないと人にはなりません。当たり前のようですが、重要です。ここも特に重視しているところです。
1.子育て支援、発達支援
現代の子どもは衛生環境の整備や栄養状態の改善、ワクチンの普及によって特殊な病気を除いて、命を落とすことはほとんど無くなって来ました。入院を必要とする細菌性肺炎、細菌性髄膜炎などは、かなり減ってきました。感染症で大きな病院を受診する必要性はほぼ無くなりつつあります。薬剤の進歩で重症の気管支喘息も減り、アトピー性皮膚炎も多くは小学生までに治っています。
一方、現代の子育てはストレスばかりです。情報源が無い、逆にいろいろな情報に流され、余裕が無い保護者(母親、父親)が少なくありません。家庭のストレスが大きく、子育てがおろそかになっているようです。保護者のストレスは、子どもの精神的な発達に大きく影響すると言われています。そこで当クリニックでは出来るだけストレス無く子育てできるように、医師、看護師、言語療法士等のスタッフがいろいろとアドバイスしながら支援します。
もちろん、どうしても子育てが難しい子どもも実際にいます。こだわりが強い、落ち着きが無い、発達に問題がある、そういう子どもが増えているのも事実です。「発達障害」と言われている子どもです(後述)。特に発達障害のある子どもには、専門家の目から見た子育てのアドバイスや療育・言語訓練などが必要になってきます。そのため、看護師、言語療法士も交えての発達支援に特に力を入れています。一人一人の特性を考えて、将来、持っている力を十分に発揮できるように支援し、いわゆる「障害児」の味方となるよう、努力していきます。
こころ(生きる力のもと)が弱い
今まで話してきた通り、感染症に対して子どもの身体は強くなってきました。しかし、別の問題が出てきました。それは何でしょう?ずばり、こころ(生きる力のもと)が弱くなってしまったことです。自分に自身が持てない、漠然とした不安感に包まれる。その結果、ストレスに弱く集団生活に馴染めない、我慢できずにすぐに他人に暴力を振るってしまう子どもが増えてきました。軽いストレスがかかっただけでも、こころの病(やまい)になる。重症になると成長してから登校できなくなり(登校拒否)、働けないどころか外出することさえできない人(ニート)になってしまいます。
こころの問題は身体の問題より、より深刻です。なぜなら対応が難しく、治療に時間がかかるからです。
それではこころを強くするには、どうすればよいのでしょうか。家庭での子どもの育て方にかかっていると院長は考えています。こころを強くするように育てれば良いのです。
具体的にはどうしたら良いのでしょう。
1. 必要なのはスキンシップ、話しかけ
産まれてから乳児の間は育てるだけで大変です。理由もわからず泣くし、夜は寝ないし、手がかかるなど、この時期に自分の思う通りに育てようと考えても無理です。叩いても状況は悪化するだけです。
この時期に「しつけ」を考える必要はありません。怒らないことだけ決めて、あとはたくさん話しかける。普通に抱っこしたり、チューしたり、ハグしたりする。など、できるだけスキンシップをしましょう。
2. 赤ちゃんが何をしても許す
当たり前ですが、赤ちゃんを大人の思い通りに行動させるのは不可能です。何でもかんでも、危ない物もよく口にします。「駄目!そんな物食べたら危ないでしょ!」と怒るのは、大人の視点によるものです。手の届くところに置いた大人のほうが悪いのです。
子育てでは何度も失敗します。親も慣れていないし、初めてなら、なおさらです。相手は生き物です。転んでちょっと頭を打つ、擦り傷を作るなんてしょっちゅうです。でも平気です。とにかく致命的な失敗さえしなければ良い、落ち込まないで次から気をつける努力をする、と考えましょう。お母さんが精神的に健康であることが、子どものこころを強くします。
1. わがままへの対応
2歳を過ぎると周りが見えてきて、自分と他人の違いが分かり、自我が芽生えてきます。従順さが無くなり、生意気になり可愛くないな、と思ってしまう。自己主張が出てくるのは当然で、しかもこの年齢では自分でコントロールができません。わがままを言っても当然なのです。要は、わがままはあきらめる。怒っても仕方無い。意外といっぱしのことを喋ると思って、言葉で言い聞かせようとしても分かってはくれません。大人の理屈は理解できないのです。
2. 社会に出る準備をします
この時期から少しずつ社会でのルールを学びましょう。最も基本的な社会のルールは何でしょうか。「規則正しい生活を送る」です。
これは前頭前野(人が人らしく行動するための脳の一部分)を育てます。動物と人との一番の違いは前頭前野です。ここの発達が悪いと、我慢できなかったり、すぐ切れたりするといった問題行動に繋がります。決まった時間に起きて寝る。ご飯をしっかり食べ、それ以外は遊ぶ。食う、寝る、遊ぶ(井上陽水です)が出来れば、それ以外のうんち、おしっこ、歯磨き、お風呂、着替えを少しずつ整えていきます。家庭で生活習慣を守れるようになることが、その後の社会生活の基礎となります。
次に社会に出て行く準備、集団でのルールを身につけます。それには、こども同士で遊ばせるのが一番です。無理に保育所に入れる必要はありませんが、他の子どもとたくさん遊んで、ルールを自然に身につけることが必要です。
3. 些細なことにはこだわらない
ちょっとした鼻や咳、湿疹があっても元気なら良し、と思えるでしょうか。前述の通り、かぜは自然に治ります。湿疹も寛解(治療をしなくても落ち着いている状態)します。子どもの些細な訴えにこだわると子どもも神経質になり、ストレスに弱くなります。ちょっとした負荷がかかるとヘコタレてしまいます。どんと構えていましょう。
4.育児に自信を持つ
保護者が自信を持つ、安定した存在である、ということが、この時期での最大の目標であり、こどもの「こころの強さ」を育てるのに必要です。母子家庭・父子家庭は問題ありません。「安定さ」が大事なのです。
1. 子どもの社会観を良好にする
小学生になれば身体は強くなりますが、社会的な問題は大きくなります。一番やってはいけないことは、絶対に子どもの前で父親(または母親)の悪口を言ってはいけない、学校の教師の悪口を言ってはいけない、ということです。普通に言ってしまう家庭が多いようです。外来でも両親がけんかしています。どうしてやってはいけないのでしょうか。子どもにとって家庭や学校は「安心していられる社会集団である」ということが重要だからです。子どもが所属しているコミュニティはまだ狭く、子どもにとって家庭が第一、次に学校です。これがコミュニティの全てです。そのコミュニティが自分にとって安心できない場所、害が及びそうな場所だと感じると、非常にストレスフルです。大人でもそうです。不安感が高まり、うつになります。社会が自分にとって良いもの、信頼できるものであると教えることが大事です。父親(パートナー)や学校の教師の悪口を言うことは、子どもの安心感を奪うことです。子どものこころの発達に非常に悪い影響が出ます。
2. 勉強やスポーツより大切なものとは
現在は小学校から学校の成績や運動面を評価することが多くなっています。しかし小さい頃から子どもを数値で評価するのは控えましょう(それがモチベーションになる子どもも当然いますが)。数値化して人と比べる、という習慣は、必ず将来のストレスを大きくします。生涯にわたって人に勝ち続ける人など、ほんの一握りの人を除いてほとんどいないからです。やった過程を褒めてあげます。少しくらい勉強ができない、スポーツができないくらいは、あきらめましょう。
それより大切なことは「友達と仲良くすること」です。東大・早稲田・慶応に入っても友達と仲良くできずニートになってしまい、社会に出られない人はいくらでもいます。勉強は出来なくても人と人とのつながりを上手に築けば、絶対に生きていけます。もちろん、勉強、スポーツができれば十分に褒めてあげます。
小学生の間で大切なのは、人と人との輪を作り、コミュニケーションをスムーズに取れる能力を獲得すること、社会性を伸ばすことです。勉強は将来いくらでもできますが、基本的な社会性に問題があると、思春期を過ぎてからでは修正が困難です。そこで友達と目いっぱい遊ぶことが必要なのです(勉強をしなくても良い、と言うことではありません。生徒には勉強も仕事の一つです)。
3.インターネット、スマホ、テレビなどのメディアは不要。
小学生にとってメディアが有害なのは明白です。メディアから得られるのはデジタルな情報です。デジタル情報があふれているのが現代の人間の不安感を高めています。こころを弱めます。日本小児科学会でも警告しています。
2.発達障害について
最近、よく「発達障害」という言葉を聞きますね。発達障害とは障害のある子のことでしょうか?自閉症とどう違うのでしょうか。
1. 発達
発達のなかには首が座る、寝返り、お座り、はいはい、つかまり立ちといった運動に関することと、ばぶー、まんまやママ・パパ等の言葉の発達があることは分かると思います。乳児健診でもチェックされますね。ところがちょっと分かりにくいのですが、発達には社会性やコミュニケーションの発達というものもあります。子育て支援のなかでも述べましたが、最初にお母さんやお父さんと意思疎通ができるか、集団に入って友達と楽しく遊んだり、コミュニケーションが取れるか。そこがうまく行かない子どもたちがいます。周りも困るけど自分はもっと困っている。この“困り感”こそが「発達障害」というものなのです。
2. 発達障害と自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動症
よくある症状は、言葉が出なかったり(コミュニケーション能力の成長が遅い)、思い通りにならないと異常に泣き叫んだり大暴れしたり(想像力の成長が遅いため怖い)、保育所や幼稚園で他の子のように一列に並べなかったり(社会性の発達の遅れ)、意味の無いような同じ動きを好む、等です。
コミュニケーション能力、想像力、社会性等に問題が出たり、同じ行動を繰り返しとる場合、発達障害のなかでも特別に自閉スペクトラム症と呼んでいます。(最新の診断基準から、名称が少し変わりました)
スペクトラムというのは連続体ということです(多様性という考え方もあります)。重症から軽症(ほとんど健常者と変わらない)まで連続している、健常者と区別がはっきりつかない場合があったり、症状にばらつきがある、ということです。幼児までのお子さんで問題になるのは、多くはこの自閉スペクトラム症の症状です。
幼稚園後半から小学生で、兄弟の乳児健診について来てちょろちょろして落ち着きが無い、公共の場でじっとしていられない、学校での忘れ物が多い、集中力が続かない、等の症状で学校や家庭、本人が困っている場合を注意欠陥・多動症(ADHD)と言います。「あっ、私そうだった!」というご両親も多いでしょう。困り感があるかが問題なのです。誰も困っていなければ病気でも何でもありません。
3. どんなときに相談すべきか
「うちの子も発達障害だ!自閉症に違いない」と思う保護者も多いと思います。子どもは成長の過程で必ず発達障害の症状が出ています。発達が完成していないから当たり前です。年齢相当の発達をしているかが決め手です。
では、どのようなときに発達障害を疑ってクリニックや市の発達支援に相談に行けば良いのでしょうか。発達障害はスペクトラムですから、「ここから先は治療が必要だ!」と線引きするのは難しいです。発達障害で相談するポイントは、保護者がどのくらい困っているかです。また、発達障害がある子どもはとても困っています。そのお子さんの視点で見ることが大事です。自分は良い子でいたいのに失敗してばかり、怒られてばかり。自尊心はズタズタです。生きていくのが嫌になってしまいます。誰かが困っていたら相談しましょう。
当クリニックは発達障害の子どもの応援をしていきます。専門的な評価を始め、保護者とともにどうやったら子どもの元々ある力を最大限発揮できるか、どんな治療(療育)が良いのか。また、言語の専門家の言語聴覚士がスタッフにおります。言語療法も積極的に行っていきます。
発達障害と言われている子どもたちは、ちょっとしたアドバイスや環境の調整で問題無く過ごせるようになる子どもも多いのです。発達障害は特性(個性と言っても良いかもしれません)です。家庭内や保育所、幼稚園などの集団の場で、できるだけ子どもが困らない、ストレスを感じない良い育ちができるように手助けをしてあげることも大切です。
4. 子どものけいれん
1. 熱性けいれん
熱性けいれんは日本人の7、8人に1人くらいの割合で発生しています。いわゆる熱によるひきつけです。決して珍しいものではありません。発熱時に(ひきつけて初めて熱があることに気づくこともあります)、突然声掛けに反応しなくなり白目を剥き、みるみる顔面が青白くなり(チアノーゼ)、ガタガタ震えます。保護者はこのまま死んでしまうのではないかと不安になります。しかし慌てないことが大切です。大抵は数分で治まります。割りばしやタオルを口の中に入れてはいけません。衣服を緩め、楽な姿勢にします。嘔吐しそうなときは、吐物で喉を詰まらせないように顔を横に向けてください。そしてよく見ていてください。このけいれんの目撃者はお母さん(保護者)が唯一の場合が多いからです。病院を受診したときに医師に経過を話せることが大事になってくるのです。けいれんが長く続くときは救急車を呼んでください。初めて起こした時は病院か当クリニックを必ず受診しましょう。診断と今後の対応について考えていきます。
2. てんかん
てんかんは、熱が無いのにひきつけたり、ボーっとしたり、意識がおかしくなる脳の病気です。症状と脳波検査で診断をします。脳波検査は連携している市立病院にお願いしています。小児のてんかんは寛解(治療をしなくても落ち着いている状態)することが多いものです。まずは相談してください。
5. アレルギー診療
皮膚が弱い、気管支が弱い子は多いです。大きくなったら大抵は良くなりますが、アレルギーを作ってしまう可能性が高いので、予防が大切です。正しい生活指導、投薬を行います。「除去食」がよく行われていますが、本当に危ない食物アレルギーのある子どもは、そうは多くないと院長は考えています。
子どもは成長し、将来は社会に出ていくダイヤモンドの原石です。社会に出たときに重症のアレルギーがあれば、社会生活を送るうえでのハンディキャップになってしまいます。まずは目の前の症状を抑えることにとらわれるより、将来、社会に出たときにひどい症状を起こさないようにと考えていきます。
アレルギーは呼吸器症状(喘息等)、花粉症、食物アレルギー、皮膚疾患(乳児湿疹、アトピー性皮膚炎)がありますが、特に誤解が多い食物アレルギーや皮膚疾患についてお話しします。
1.乳幼児の食物アレルギーについて
食物アレルギーの原因となりやすいものは、卵・ミルク(牛乳や粉ミルク)・小麦・大豆です。乳児の食物アレルギーの約90%はこの4種類の食物が原因となります。大きくなると他のアレルギーを作ってくることがあります。
食物アレルギーの症状は、原因となる食品を食べた後、30分~1時間以内に口の周りが赤くなる、蕁麻疹が出たりする等です。また、消化管でアレルギーが起きて、下痢やおう吐などをしたり、喘息のような症状が出ることがあります。ごく稀にはショック(意識消失、血圧低下、最悪は死に至るケースも)を起こすので、注意が必要です。
食物アレルギーをどのように診断するかと言えば、まず食べて反応が出たことがあるかどうかがポイントです。次に血液検査を行います。これは血液の中にアレルギーの原因となる抗体がどのくらいあるかを調べるものです。RASTやMAST検査がこれにあたります。ただし、血液検査は絶対ではありません。あくまでも参考程度にとどめます。
食物アレルギーと診断されたら、原因となる食物を除去します。しかし、アレルギーを治すためには時期を見て徐々に食べさせることも大切です。適切な時期に食べることで、耐性ができて食物アレルギーのほとんどは治っていきます。また、湿疹は食物アレルギーの結果ではありません。湿疹があるからと、むやみに食物制限をする必要はありません。血液検査で多少の反応があっても、ほとんどの場合は食べさせることができます。
お父さんやお母さんが食物アレルギーを持っている場合、乳児湿疹が強い赤ちゃんでは、アレルギーの原因となりやすい食品(卵、ミルク、小麦、大豆)を最初に与えるときは注意が必要です。耳かき1杯程度のごく少量から開始しましょう。血液検査で強いアレルギーが出ているときは、安全のために負荷試験をしながら離乳食を進めていくとよいでしょう。
食物アレルギーは蕁麻疹の原因にはなりますが、蕁麻疹が出たからといってアレルギーだ、と考えるのは早計です。アレルギーが原因となる蕁麻疹は全体の数%でしかないと言われています。蕁麻疹の最大の原因も「皮膚が弱いこと」です。皮膚の状態が不安定なため、ちょっとした刺激でヒスタミンという物質が出て、蕁麻疹を起こすと考えられます。
2.乳児湿疹(乳児アトピー)について
乳児湿疹の大部分は1歳までに軽快するので、成人のアトピーとは異なります。湿疹がひどくても、本当のアトピー性皮膚炎かどうかは1~2歳までの経過を見ないと判断できません。湿疹の原因は「体質的に皮膚が弱いこと」です。正常にある皮膚のバリア機能が弱く、すぐにジュクジュクしたり、乾燥したりします。また、ちょっとした刺激で蕁麻疹が出やすいのが特徴です。
a. 治療について
基本的には、皮膚のバリア機構を正常化させるようにします。ワセリンの主な成分は油ですので、皮膚から水分が出ていくのを防ぎ、皮膚における外部からの刺激を抑えてくれます。痒みの強い湿疹があれば、ステロイド軟膏を塗布します。ステロイド外用剤は上手に使うと効果抜群です。痒みが強く、外用剤で痒みのコントロールが難しい場合は、抗アレルギー剤や漢方薬を試します。
b. アトピーを予防する
原因は以下の2つと考えられています。
① 生まれつきの因子
遺伝的な体質です。元々皮膚の水分を保持する能力が低く、乾燥肌になりやすい体質です。乾燥した皮膚はバリア機能が弱く、様々なアトピー症状が出ます。
② 生まれた後の因子
アトピーの発症は生まれつきの因子以外にも様々な因子が関与しています。
1) 皮膚の悪玉菌(主に黄色ブドウ球菌)への抵抗力ができない。
それは生まれてから黄色ブドウ球菌の感染を繰り返してしまうために起こります。
2) ダニアレルギー
ダニが多い環境で生活していること。
以上のようにアトピー性皮膚炎を予防するのには、1)黄色ブドウ球菌が皮膚で増殖するのを防ぐ、2)ダニアレルギーの発症を防ぐ、です。この2つのことを指導していきます。
c. 結局、乳児湿疹(乳児アトピー)は
乳児湿疹、アトピー性皮膚炎に関してはいろいろな治療法(怪しいものも含め)が流布していますが、基本的にはスキンケアが一番大事です。そして、将来的には大体良くなります。
3.食物負荷試験とは
適応は以下のような子どもです。
- 小さい頃に食品で明らかな蕁麻疹が出た子ども
- 乳児湿疹が強く、血液検査で卵や牛乳に対し、強いアレルギー抗体を持つ子ども
- 蕁麻疹を繰り返す子ども
まず、生後10ヶ月~1歳で血液検査をして、どのくらいアレルギー抗体を持っているかを調べ、ひどい異常値でなければ負荷試験を実施します。負荷試験は、アレルギーが出た食物をほんの少しずつから食べていきます。アナフィラキシーという危険なアレルギー反応が出る可能性があるので、院内で行います。詳細は省略しますが、徐々に食物に慣れ、やがて食べられるようになることが多いです。
6. アドボカシー
子どもの生育環境は年々悪化しています。自然環境の悪化、遊び場の減少、核家族化、メディアによる情報の氾濫、虐待・離婚率の増加に伴う家庭崩壊。茅ヶ崎でも、院長が赴任してから大木の林が無くなり、田んぼが無くなり、住宅などの建物に変わってしまったところがたくさんあります。子どもが自然と接する機会は否が応でも減っています。その影響か少年犯罪や、登校拒否、引きこもり、ニートなどで社会生活を送れない人が増える等、社会全体に影響を及ぼしています。子どもが将来の社会を作るのに、子どもの育ちが悪ければ社会全体が悪いものになってしまいます。しかし、子どもたちは自ら社会に働きかけることはできません。そこで小児科医を始め、子どもたちに関わる我々大人が子どもの代弁者になって、社会への様々な提言や啓発活動を行っていきます。これを“アドボカシー”と言います。
自分の住んでいる地域、国は素晴らしいのだ、と自信を持って誇れるような人に育てていきましょう。
7. まとめ
子どもの目の前の症状だけに振り回されてはいけません。良い子育てをするには部分的な症状にこだわるのではなくて、子どもの全体を見ることが大事です。現在の子どもの姿だけを見るのではなく、5年後、10年後にその子どもがどのように成長・発達をしているかを考えて診療を行っていきます。
当クリニックは“茅ヶ崎の松下村塾”を理想としています(院長が勝手に夢想しています、クリニックなのですが…)。子どもたちは日本の将来を背負っていきます。子どもは社会の宝です。みんなで温かく見守り、応援していきましょう。